2006年11月02日

なんのために人は風邪をひくか

今年初めての風邪をひく。
何もかも疲れる。
話したくない。
美しくない姿勢。
咳に対する恐怖。
不健康に対する不安。
体調が悪いということは、こんなにも不愉快な
ことであったか。
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2006年08月03日

抹茶アイスにうってつけの日

 今日は、ひさしぶりのお休み。手帳をめくると
「晶子さんとランチ」とある。12時までに晶子さんの
お気に入りの懐石料理のお店に行けばいい。それまで、
ゆったり、布団でも干していようと思ったところ、居間
の電話が鳴った。
「もしもし、山下さん。今日、公民会で打ち合わせだった
わよね。」
おっと、まずい。忘れていた。今日は月に一回のお茶会
ための打ち合わせをする約束だった。あわてて着替えて、
公民館まで突っ走る。みなさん、あきれた顔をしているの
でひたすら謝った。会議はじきに終わったのだが、世間話
がなかなか終わらない。今度は晶子さんとのランチの時間
が気になってきた。切り出すタイミングが見つからず、困
ていたが、ちょうど携帯電話がなった。
「ごめんごめん。今日は、例のお店が定休日だった!」
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2006年07月30日

さよならソンさん

 ソンさんが、私のことをどう思っているのか
最後まで謎だった。だけど会えば優しかったし
おもしろい話をしてくれたし、懐かしいものを
眺めるように私の目を見ていた。私がソンさん
のことを好きだなんて、火を見るより明らかだ
ったのに、そういう思いをいつも交わしながら、
それでも丁寧に私と関わってくれた。
 ソンさんと最後に会ったのは3月。それから
全くの音信不通。いったいどこで何をしている
のかわからない。私の前から突如姿を消したのだ。
それからは電話もメールも通じない。それでも
私はいつも電話とメールを待っていた。待って
待って待っていた。
 ソンさんがどこに行ってしまったのか、だれも
わからない。ソンさんは私に諦めてほしいのだろう
か。
 私は紅茶の味の飴をなめながらソンさんを思った。
どうにもならない片思いだった。
 
 
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2006年06月30日

自転車

 尚人くんはいつも赤いデイパックをしょって
自転車に乗って現れた。彼は自転車をお店の前に
おいて2ロックすると、店に入ってくる。私は
いつも、文庫本売り場をうろうろしている。
 尚人くんは「おっす」と私に声をかけるがその
まま奥に行ってしまう。
 追いかけていきたいけれどそれではストーカー
になってしまうので、じっと尚人くんの気配を
感じながら、立ち読みをしているふりをする。
尚人くんが急に後ろに立っていた。
 「いっしょに帰らないか」
と尚人くんが言うので、私はびっくりした。
こっくりうなずき、三島由紀夫の文庫本を書棚
に返すと、尚人くんの後ろに続いた。
 尚人くんは自転車を引いて歩いた。ずっと黙って
いた。私はいろいろ話しかけてみたかったのだが
どの話から始めたらいいのか躊躇していた。
 10分くらい黙って並んで歩いただろうか。
尚人くんが自転車をとめた。
「あのさ、ここのクロワッサン、すごくうまいんだ。
悪いんだけど、買ってきてくれないか」
「は?」
私は思わず尚人くんを見つめた。なに?自分で店に
入れないから、私をさそったのか?
むっとしたが、仕方がないので、私はクロワッサン
を2個買った。
尚人くんは外から、私がクロワッサンを買うのを見つ
めていた。ずっと。尚人くんが絶賛するからか、本当
にクロワッサンは絶品に見えた。いい香りがした。
 私と尚人くんは、河原でクロワッサンをかじること
にした。さくさくとして、香ばしくて、尚人くんが好き
なわけがわかった。食べ終わると
「ありがとな。またな」
と尚人くんは自転車に乗って行ってしまった。私は
取り残されて、とぼとぼ歩き出した。

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2006年05月14日

母の日

 母の日、街は男とこどもたちがわくわくしていた。花屋と
お菓子屋はひときわきらびやかだった
 けれども、私の気持ちは沈んでいた。母の日が嫌いだ。
母のことはどうしても好きになれない。母に心から感謝す
る気持ちが起きない、母を愛する気持ちがわかないのに
とりあえず、母の日を祝う気にはなれなかった。
 母にも私の気持ちが通じてしまっているようだった。
幼なじみの小夜子の家から帰ってくると
「あんたまた、小夜子ちゃんのところで私の悪口を言って
きたでしょう。」
とちゃんとわかっている。背中がひやりとする。図星だ。
だから嫌い。母は私の行動の一切を管理しようとする。
 だまって、キッチンテーブルの上におまけのような
真っ赤なカーネーションを置き去りにして私は部屋にとじ
こもった。
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2006年04月27日

アイスクリーム

 風には
 もう何ももとめない
 もう何も期待しない
 とそのときは思った
 思いがけない風がやってきて
 満たされたきもちだったから
 けれども
 時間がたてば
 さびしくなるし
 不安になるし
 また吹かれたくなり
 風音を聞きたくなり
 いっしょにアイスクリームを食べたい気分になる
 でももう
 風を待たない
 吹かば吹け
 
 
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2006年04月14日

守株

 一方通行の細い道、郵便局からの帰り道を葉子はとぼとぼ歩
いていた。すると、一台の黄色い車が歩いている葉子をゆっく
り追いかけてきて、ふと、彼女のとなりにとまった。
「どうですか?乗っていきますか?」
出張帰りの真嶋だった。心の隅でこんなことがあったらなと葉
子は思っていたけれど、現実になって心底びっくりした。黄色
い車に乗りたい気持ちは山のようにあったのに、私はやせ我慢
してこう言った。
「歩くのが好きなんです。ちょっとダイエットしなくちゃ」
真嶋は、笑って、車の窓をしめた。黄色い車は、通り過ぎてい
った。ひとり残された葉子は、どうして乗せてもらわなかった
のだろうと、もはやどうにもならない後悔をした。そうして、
その後もなんども郵便局の帰りにはその道を通った。でも、黄
色い車がその道を通ることは2度となかった。葉子は高校時代
にならった故事成語を思い出していた。

 
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2006年04月11日

  風は
  言い訳も説明も
  なんにもなしに 
  ただそこを
  吹いていった
  もう2度ともどらない
     
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2006年04月10日

ポスト

 女の子は、雨の日も曇りの日も雪の日も
ポストの前に立っていた。
「落ち着いたら連絡するから」
という言葉を
ずっと信じてまっていたのだ。
彼女は、ある日自分がもう若くないことを
知った。けれども彼女は待ち続けた。
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2006年04月09日

キュービックキツネツキ

 おーいおーいと声をかけられて、私は目をさました。
記憶がぼんやりとしている。
「なんか変な顔しているよ。狐に憑かれたんじゃないか」
と誰かが言っている。
何があったのか覚えていない。心に残っているのはただ
喪失感だけで、具体的な記憶は飛んでいる。
「お前さん、手に何持っているんだい」
私は言われるままに、手を差し出した。直径5センチくら
いのルービックキューブを私は握っていた。どうしてそん
なものを持っているのか覚えがない。
「なんで私は、ここにいるの?」

 私はだれかのことを好きだった気がするのだけれど
誰だったかしら。
私は、その人に迷惑をかけちゃったように思うのだけど
何をしたんだったっけ。
 私は、キツネに憑かれたおかげで苦しい過去をすべて
忘れることができたようだ。私はルービックキューブを
ぎゅっと握りなおした。


posted by ns at 21:37| Comment(1) | TrackBack(0) | ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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